これで安心 快適な老後のための7つの契約・公正証書⑦ 家族信託
家族信託とは
財産を持っている人(委託者)が、自分の信頼できる家族(受託者)に財産を託し、定められた目的に従って財産を管理・処分してもらい、その財産から得られる利益を定められた人(受益者)に渡す仕組みです。
例えば
- 父が息子に不動産を預ける
- 息子がその不動産を管理・運用・処分する
- 不動産から得られる家賃収入を父が取得する
②の部分は、父親が認知症になると行うことができなくなるので、息子に託しておくという仕組みです。
家族信託の3大メリット
1.柔軟な財産管理が実現できる
家族信託では、成年後見制度とは異なり、財産管理を制約が少なく行うことができます。
認知症になった人の財産管理は、従来、成年後見制度が一般的に使われてきました。しかし財産が裁判所の管理下に置かれてしまうため、資産の売却に裁判所の許可が必要であったり、毎年裁判所へ資産に関する報告を行わなければならないなど、制度上の制約・負担があります。
家族信託は、自分の信頼できる家族に財産を預け、裁判所の関与なしに行えるので、信託契約に基づき、資産の売却・運用や生前贈与なども自由に行うことができます。
2.成年後見制度と比べて認知症対策の費用が安価で済む
家族信託では、成年後見人(法定)と違って、自分自身で財産を管理する人(受託者)を決定できるので、受託者の了承さえ得られれば、受託者に報酬を支払う必要はありません。
原則的に、毎月報酬を支払う必要がある成年後見制度と比較して、認知症対策に要する費用を節約することができます。
家庭裁判所が公表した成年後見人に支払うべき報酬の目安
認知症の方の資産額 | 成年後見人に支払うべき月額 | 複雑な要件である場合 |
---|---|---|
1000万円以下 | 2万円 | 左の金額に最大50%加算 |
1000万円より多く 5000万円以下 |
3〜4万円 | 左の金額に最大50%加算 |
5000万円より多い | 5〜6万円 | 左の金額に最大50%加算 |
3.二世代・三世代以上先も財産の承継者を指定することが可能
家族信託では、遺言と異なり、「一代限り」という縛りがなく、二世代・三世代先の相続まで自分自身で決定することができます。
遺言書では、自分自身の財産の渡し方について細かく決めることができますが、相続財産を受け取った人がどのように財産を処分するかについては決定することができません。
それに対し、家族信託では、財産を受け取った人がさらにどのように財産を渡すかまで決めることができます。例えば、妻を受益者とし、妻が亡くなったあとは長男を受益者とするという信託契約を締結すれば、妻の相続についても自分自身で決定したのと同じ効果を得られます。
先祖代々の土地を守りたい人や自分の経営する会社の株式を身内だけに渡したい人には有効な手続きです。
家族信託の注意点
1.遺留分を排除できるとは限らない
2.遺言・成年後見でなければ実現できないことがある
特定の相続人に絶対に渡したい財産がある場合(先祖代々の土地を長男に渡したいなど)は遺言でしか認められない。
成年後見人は、身上看護(認知症の人の生活面・健康面に関する法的手続きの支援。例えば老人ホームの契約など)を行うべきものと法律上定められている。家族信託は、あくまでも財産の管理・処分。
3.難易度が高い法手続き
4.初期費用がそれなりにかかる
専門家に依頼する場合、報酬が発生しますが、簡単な案件であったとしても実費を含めた初期費用は、50万円強はかかると思っていただいた方が無難です。成年後見制度にかかる総費用よりはお得だと思いますが。
5.資産の監督制度が甘い
裁判所の監督がないため、受託者の不正による被害に遭いやすいという点があります。
信頼して財産を任せることができる家族がいない場合は、家族信託を断念せざるを得ないと思います。