法定相続

相続の基本

相続には3つのケースがあります

単純承認(民法921条)
限定承認(民法922条)
相続放棄(民法938条)

単純承認

 単純承認は、何の手続きも必要としないため、熟慮期間(相続の開始を知ったときから3ヶ月以内)内に何も手続きをしなければ、全て単純承認となります。
最も事例の多い相続のケースです。


限定承認

 限定承認とは、積極財産の限度においてのみ、消極財産の債務や弁済をすることを保留して相続することです。熟慮期間内での手続きが必要です。

 積極財産>消極財産なら、消極財産の処理後の差額が承継する財産となる。

 積極財産=消極財産なら、承継する財産無し

 積極財産<消極財産なら、承継する財産はありませんが、負債を背負う必要もありません

 積極財産と消極財産とは?

 積極財産とは、相続財産のうち預金、貯金、有価証券、不動産など金銭的な価値のある財産。

 消極財産とは、借金などの負債や連帯保証人の地位などの不利益となる財産。

 被相続人が事業などを営んでいたり、親族に対して秘め事が多かったりする場合など、積極財産と消極財産とが不明瞭であるときに有効な承認です。
ただし、手続きに非常に多くの資料が要求され、実例は多くありません


相続放棄

 相続放棄とは、相続人が全面的に相続財産の承継を拒否することです。熟慮期間内での手続きが必要です。

 被相続人に多額の負債があった場合、相続人に不利益をもたらさないように回避するために設けられた制度。被相続人に消極財産が多かった場合には、利用すべき制度です。

 また、相続放棄をした場合、放棄した相続人は、相続開始のときにさかのぼってはじめから相続人でなかったものとされます。
相続放棄によって、他の法定相続人の法定相続分に増減が生じることがありますので、他の相続人に連絡しておくことも、親族関係を円滑に進めるためには必要と思います。


法定相続人について

法定相続人 

 配偶者は常に相続人(民法890条)
 第1順位:子(民法887条) <子が亡くなっている場合は、その子(孫)代襲相続 >
 第2順位:直系尊属(親)(民法889条) <親が亡くなっている場合は、祖父母などの直系尊属>
 第3順位:兄弟姉妹(民法889条) <亡くなっている場合は、その子ども(おい、めい)代襲相続は一代限り>

法定相続分

 法定相続分は民法で定められた相続の割合ですが、遺言書で指定相続分が定められていれば、そちらが優先します。

 相続人の組み合わせ

 配偶者のみの場合

  配偶者  全部

配偶者と子の場合

配偶者と直系尊属の場合

法定相続分(妻と子2人)
  配偶者 2分の1
   子  2分の1
子が複数いるときは2分の1を頭数で割る
法定相続分(妻と両親)
  配偶者  3分の2
  直系尊属 3分の1
直系尊属が複数いるときは3分の1を頭数で割る

妻と兄弟姉妹の場合

その他の場合

法定相続分(妻と弟)
   配偶者  4分の3
   兄弟姉妹 4分の1
兄弟姉妹が複数いるときは4分の1を頭数で割る

例えば

① 子のみ
② 直系尊属のみ
③ 兄弟姉妹のみ

いずれの場合も

血族相続人  全部

同順位の者が複数いるときは頭数で割る

 なお、法定相続分の通りに分けなければならないわけではなく、遺産分割協議で相続人同士で合意できれば、法定相続分と異なる割合で分けることもできます。


遺留分とは

 一定範囲の相続人に対して、相続財産の一定部分を留保させること。しかし、遺言によって自分の遺留分が侵害されて、かつ争いとなったとき、従来は遺留分減殺請求という物権的効果を生じさせる制度でしたが、平成31年度の法改正によって、遺留分侵害額請求という金銭債権が発生する制度に変わりました。
なお、「遺留分」制度で重要なのは、遺留分が認められる相続人であっても、自動的に遺留分がもらえるわけではないということです。
亡くなった人(被相続人)の遺言によって、自分の遺留分を侵害されたことを知った場合は、まず、相続人がそれぞれ個別に、侵害された分の取り戻しの請求を行わなければなりません。

相続人 全員の遺留分 相続人の遺留分
配偶者 子供 父母 兄弟姉妹
配偶者のみ 1/2 1/2 × × ×
配偶者と子供 1/2 1/4 1/4 × ×
配偶者と父母 1/2 2/6 × 1/6 ×
配偶者と兄弟姉妹 1/2 1/2 × × ×
子供のみ 1/2 × 1/2 × ×
父母のみ 1/3 × × 1/3 ×
兄弟姉妹のみ × × × × ×

 1:配偶者のみ

 妻や夫といった配偶者は必ず相続人になり、遺留分の割合は1/2です。

2:配偶者と子

 配偶者と子も、遺留分の割合は1/2です。

3:配偶者と父母

 配偶者とその父母の場合も、遺留分の割合は1/2です。

4:配偶者と兄弟

 配偶者と兄弟の場合は、妻については遺留分の割合は1/2です。兄弟姉妹には遺留分はありません。

5:子のみ

 配偶者もおらず、子のみの場合、遺留分の割合は1/2です。

6:父母のみ

 配偶者がおらず、被相続人の子もいない場合は、父母が相続人となります。その場合の遺留分の割合は1/3です。

7:兄弟のみ

 兄弟には遺留分は認められていませんので、兄弟が受け取れる遺留分はゼロになります。

 ちなみに、法定相続人のうち、配偶者と子供(代襲相続人)、父母(祖父母)には、遺留分が認められています。


Q&A

Q.代襲相続とは?

A.相続人が、被相続人よりも先に死亡していた場合に、相続人の子どもが遺産相続をすること。
例えば、父親が死亡した時に、子どもが父親より先に亡くなっていた場合、子どもに子ども(孫)がいれば、その孫が代襲相続によって相続人となります。この場合の孫は法定相続人ですが、代襲相続をするので代襲相続人と言われます。
代襲相続人の法定相続分は、被代襲者(上記の例で言うと子ども)と同じになります。代襲相続人が複数いる場合には、代襲相続人の人数で頭割り計算をします。


Q.被相続人より先に子どもも孫も亡くなっていた場合は?

A.ひ孫が代襲相続によって法定相続人になることができます。


Q.兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていた場合は?

A.死亡していた兄弟姉妹に子ども(被相続人から見て甥や姪)がいれば、その甥や姪が法定相続人となります。この場合の甥や姪の法定相続分は、被代襲者である死亡した兄弟姉妹と同じになります。


Q.兄弟姉妹の代襲相続は一代限り

A.甥や姪の子どもは代襲相続人になることができません。被相続人より先に兄弟姉妹も甥姪も死亡していた場合には、甥姪の子どもは相続人になることができないということです。


Q.養子は、養親の相続人となるのか?

A.養子は、相続に関して、実子と同じに扱われます。したがって、養子は養親の相続人となり、相続分も実子と違いはありません。その結果、養子は実の親と養親の両方から相続を受けられることになります。


Q.再婚した妻の連れ子は、相続人となるのか?

A.再婚した妻の連れ子は、相続人とはなりません。もし新しい夫が、妻の連れ子を相続人にしたいのであれば、新しい夫と連れ子との間で養子縁組をする必要があります。


Q.自分の子が一切相続しないように、相続分を奪うことはできるのか?

A.被相続人に対して虐待や重大な侮辱があった場合、家庭裁判所に、相続人廃除の申立をして、家庭裁判所が廃除の審判をすることで、その相続人の相続分を奪うことができます。


Q.被相続人に対して犯罪を犯した相続人は、相続権がなくなるのか?

A.被相続人に対する全ての犯罪について、相続権がなくなるわけではありません。しかし被相続人に対する殺人や殺人未遂の罪で刑に処せられた相続人は、相続権を失うことになります。
このような、相続権を失う事由を、相続欠格事由といい、欠格事由には「被相続人の生命の侵害」と「遺言に関する不当干渉」があります。

「被相続人の生命の侵害」
相続人が故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、 又は至らせようとしたために、 刑に処せられた場合 (民法891条1号)
相続人が、被相続人の殺害されたことを知って、 これを告発せず又は告訴しなかった場合(民法891条2号)

「遺言に関する不当干渉」
詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた場合 (民法891条3号)
詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、 これを取り消させ、 又はこれを変更させた場合 (民法891条4号)
相続人が、相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合 (民法891条5号)

しかし、これらの行為が欠格事由に該当すると言えるためには、自己の利益のためや不利益を避けるためという意思が必要とされています。

最高裁平成9年1月28日判決
相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。(抜粋)